第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した「万引き家族」。是枝裕和監督は授賞式で、「さすがに足が震えています」と興奮気味に切り出し、「この場にいられることが本当に幸せです」とスピーチ。続いて行われた会見では、監督は受賞の喜びを語った。日本メディアとの一問一答は次の通り。
――受賞が決まり、檀上に上がった際の気持ちは?
あまり緊張するタイプではないが、めずらしく緊張していたので、とりあえず通訳している間にしゃべることを考えていました。
――授賞の名前が次々と呼ばれていく中で、どんな気持ちだったか?
発表される順番が毎年違うので、気が付いたらグランプリとパルムドールしか残っていなかった。残っている監督が誰かもはっきりわからなくなっていて、でも周りがザワザワしてきたので、不安な気持ちもありつつという感じでした。
――今感じていることは?
(トロフィーが)すごい重いです。ずっとトロフィーを持ち続けているので腕がガチガチなんですけど、これをいただくというのは、監督として本当に重い出来事で、この先、この賞をもらった監督として恥ずかしくない作品をまたつくらなければならないなという覚悟を新たにしています。
――映画を通して社会に伝えるメッセージは必要かどうか?
あまり社会に対するメッセージを伝えるために映画を撮ったことはないですし、それは正しい形ではないなと思っています。僕が描いた家族とどう向き合って、見過ごしてしまうような環境だったり、感情だったりをどう丁寧にすくい取るかということだけを考えようと思いました。でもそれはいつもやっていることなので、そこからどんなメッセージを受け取るかは僕が発するのではなく、受け取る側が決めることなんじゃないかなと、いつも思いながらつくっています。
――世界共通でこの作品のもつ普遍的な思いが通じたと感じるか?
公式上映のときのリアクションも本当に温かかったんですけど、その後の取材にくる記者の方たちも言葉の中に、「TOUCH」と「LOVE」という言葉がすごいあふれていて、ちゃんと届きたいところに届いたのかなという思いではいました。表面上の罪を犯している家族の話であるとか、今の日本の社会状況がどうとかということの奥に、やはり父になろうとすること、母になろうとすることという、普遍性みたいなものを受け止めてくれたからそういう言葉が出たのかなとは思っていました。とてもうれしく思っていました。
――審査員長のケイト・ブランシェットが閉会式で「invisible people(見えない人々)」というのが今回大きなテーマだと言っていた。「万引き家族」が最もそのテーマに当てはまるといえるが、それについてはどう思うか。
「誰も知らない」のときにも、社会から見えなくなっている子供たちをどう可視化するかということを考えながら撮った映画だったんですが、今回もスタンスとしては同じ。やはりそれを見過ごしてしまう、もしくは目をそむけてしまいがちの人々をどう可視化するかということが、全てとは言いませんが、僕自身は映画をつくる上では常に自分の中心に置いているスタンスだったりもするので、今回はかなりストレートに反映された映画だったと思っています。ブランシェットさんの言葉はすごくうれしく聞きました。
――日本にいるキャストとは話したか?
今この状況でLINEのやり取りをしていて、合間にちょっとずつ写真を送ったり。まだちょっとバタバタしていて「おめでとう」「素晴らしい」ぐらいの会話しか交わせていないです。
――是枝監督にとってパルムドールとは?
悲願って、よく新聞に書かれていたんですけど、言ったことは一度もなくて……。賞というのは目標にするものではないといつも思っています。この場所に来て、クロージングセレモニーに立てるということはとても光栄なことですし、ましてや最高賞をいただくというのは、僕自身のキャリアにとっても大きなステップアップとなるでしょう。これであと20年くらいはつくりたいなという勇気をもらった気がします。
――自分はベネチアに認められたと、ようやくカンヌにおかえりと言ってもらえるようになったとおっしゃっていたが、これで名実ともに「カンヌの是枝」になったと思うが、そのことについてどう思うか?
発見していただいたのはベネチアですし、ずっと育てていただいたのはカンヌなのかなと思います。良い映画祭というのは、作り手を育てる場所だなと思うので、僕は7回呼んでいただいて、評価をいただいた回もあれば、そうでない回ももちろんありますけど、どの回もとても貴重な経験をさせてもらっています。今回は残念ながら授賞会場にはいらっしゃいませんでしたが、韓国のイ・チャンドンと中国のジャ・ジャンクーという同時代にすごく強い作家がいて、彼らと同じ時代に映画をつくれて、お互いに作品を認め合いながら、刺激し合いながら、この場に来られているというのはとても恵まれているなと思います。彼らがいるから僕も頑張ってつくれているし、彼らの映画との向き合い方がすごく僕に刺激を与えてくれているというのはすごく感じています。そういう監督たちとここで出会って再会して、肩をたたき合ってまた自分の映画つくりの現場に戻るというのは、ひとつ、大きなイベントとして思っています。
――受賞スピーチの際に「ここを目指す若い映画の作り手たちとも分かち合いたい」とおっしゃっていたが、改めてそういう方たちへのメッセージがあれば。
華やかな場所だからここが素晴らしいわけではなくて、自分がやっている映画というものが世界とつながっていて、映画の奥深さや歴史というものに触れられるとても良い経験ができると思います。どんどん若い人たちも目指すべきだというのはおこがましいかもしれませんが、それは監督も役者も同じく、経験すると恐らく何か捉え方が変わるので、そういう意味でも自分も周りにいる若手の監督の卵の子たちをできるだけここに来られるようにしているし、これからもそうしたいと思っています。
――今後どういう映画に挑戦したいか?
口にするとなかなか実現しないものですから、あまりしゃべらないようにしているんですけど、色々一緒に映画をつくらないかと言ってくれる方たちが日本の外にいらっしゃるので、海外の役者たちと一緒に映画をつくるというチャレンジに向かってみようかなとここ数年思っています。
――一緒にやりたい役者、スタッフは?
こういう映画祭でお会いして、いつか一緒にやりましょうねって言っていただけるのはだいたい役者さんが多いので、交流の中で次の企画の種をまいているところですけど、実現するといいなと思っています。
――帰国してやってみたいことは?
フランキーさん、サクラさん、子供たちも含め、トロフィーを持って会えるといいなと思っています。
――樹木さんはなんとおっしゃると思うか?
てんぐにならないように(笑)。
――受賞したことで燃え尽き症候群になってしまうなどの心配はあるか?
全然そんな心配はしていないですね。目指していないというとかっこよすぎるかもしれませんけど、これで映画の企画が通りやすくなるなと(笑)。むしろこの先、どういう風に自分で撮りたいものを実現していくか、この賞はそういうところでのエネルギーにはなるなと思っています。
◇
第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した「万引き家族」。授賞式後の会見で審査員たちが賛辞の言葉を贈った。
ケイト・ブランシェット審査員長(俳優)
「この作品は演技、監督、撮影など総合的に素晴らしかった。選ぶにあたって気に入っていた作品を落とさないといけないのはつらかったし、難しかったが、最終的に私たちは意見が合致した。「万引き家族」はとにかく素晴らしかった」
ドゥニ・ビルヌーブ審査員(映画監督)
「この作品は私たちに深い感動を与えてくれた。とにかく恋に落ちてしまった。上品で素晴らしくとても深い。魂をわしづかみにされた」
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