大河ドラマ「西郷どん」(原作:林真理子 脚本:中園ミホ/毎週日曜 NHK 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
第39回「父、西郷隆盛」10月21日(日)放送 演出:盆子原 誠
西田敏行、貫禄の登場
いよいよ明治編に突入した「西郷どん」。
明治37年、京都市長となった西郷菊次郎は西田敏行というサプライズ。
ナレーションの声だけから肉体も登場となった。
このシーンこそ林真理子の原作の第一巻の冒頭に近い。菊次郎が市長になるところからはじまる原作を事前に読んでいた読者としてはほっとした。38回、長かったー。
なにより西田敏行の貫禄や滋味に高年齢及び昔ながらの大河ドラマ好きの視聴者が戻ってきたか、ビデオリサーチ調べによれば視聴率は12.3%(関東地区)、14.8%(関西地区)。
引き継ぎする前市長・内貴は時代考証の磯田道史。西田と磯田のやりとりは圧倒的に差があり過ぎたが、そこはスルーしたい。
父・西郷隆盛が維新を行った京都で市長になったことを讃えられた菊次郎だったが、自分は長らく父の名を出してこなかったと控えめだ。なにしろ、西郷家の嫡男ではないからと。
39話は嫡男問題が通奏低音となる。
助役・川村鉚次郎(川口覚)から偉大なる父・西郷隆盛のことを聞かせてと請われ、知らないことが多いが明治2年の頃から話そうと菊次郎が語り部になる。じゃあ、それまでの西田敏行ナレーションは誰視点なの〜。と思ったがそれもスルーしておく。
川口覚は蜷川幸雄のさいたまネクスト・シアターで「ハムレット」のタイトルロールなどを演じ、なかなかないハムレット(あの文語的な台詞を現代劇のような調子で語りきった)をやってみせたり、大正時代を生きる者たちを描いた宮本研の「美しきものの伝説」では久保栄を演じ、師匠・島村抱月と語り合う場面が魂をさらけ出し合うような素晴らしさだったりする才能のある俳優だ(演出が良かったのだがそれにみごとに応えた)。
オープニング映像も角刈り西郷に。
白の西郷、黒の大久保のコントラストが鮮烈。
子供の菊次郎(城桧吏)がかわいい。
菊次郎の回想の形でドラマは進行する。語り口がこれまでと同じで、これまでも菊次郎の視点だったってことなの?とちょっと迷うがそこもスルーする。
大島から鹿児島にやって来た菊次郎を演じるのは、城桧吏。2006年生まれの12歳。是枝裕和監督の「万引き家族」に出演し、柳楽優弥を再来かと思わせるような目の強さが印象的。事務所は柳楽と同じスターダストである。
そしてついに愛加那(二階堂ふみ)と糸(黒木華)が顔を合わせる。
落ち着いた笑顔(を保とうとつとめてる)の糸。どこか遠慮のある愛加那。西郷吉之助をはさみ、複雑な女心を描く場面。
糸がお礼を言うと、好いた人を守るのは当たり前・・・と返す愛加那。
ふたりともお互いを憎んではいないのだろうけれど、モヤモヤを消すのは難しい。
これ、なんか既視感あると思ったら、朝ドラ「ひよっこ」の木村佳乃と菅野美穂と沢村一樹パターン!
一応説明すると、「ひよっこ」では出稼ぎに行った夫が記憶喪失になって、助けてくれた女優と同棲をしていたことを妻が知って、ふたりの女が対峙する。互いに人間的には認め合うものの、ひとりの男をめぐる女としては辛い感じが切々と描かれた。
嫡男問題
西郷は武村に居を映して、ようやく貧乏じゃない家になった。そこで菊次郎も暮らすようになる。
新キャラとして信吾(錦戸亮)の嫁・清(上白石萌音)登場。後に、フランスから帰ってきた信吾に抱きしめられる(外国風挨拶として)。
あと犬のゴジャとツン。
「さすが若さあのお子じゃ。犬が好きじゃ」と熊吉(塚地武雅)。ものすごい説明台詞も塚地はちゃんとキャラを保って語る。
ドラマ開始14分、父との出会い。2つか3つくらいのときに会ったきりで、イメージしていた立派な父とは違ってすこし拍子抜けしたと回想する菊次郎。いったいどんな立派な姿を想像していたのか・・・。
さて、ここで、嫡男問題再び。
長男の席と案内されるが菊次郎は遠慮して、寅太郎に譲る。
寅太郎が嫡男であると愛加那に言い聞かされていたのだ。
愛加那がものすごくわきまえている辛さを感じてこっちまで辛くなる。
その後、薩摩武士の若者・横山安武(笠松将)が、西郷に維新が起こっても民はちっとも楽になってないと訴え、東京に出て解決を図りたいと相談する。そのとき、一部の恵まれた人物だけが「大きな屋敷に住み、妾を囲い贅沢三昧」と言う。大久保もそのひとりで、ゆう(内田有紀)は相変わらず、大久保の女として堂々と振る舞っている。
西郷は島妻やその子どもを生き辛くさせている。維新とかっこいいことを言っていても、一番身近な人間すら
幸せにできてない皮肉を感じるドラマである。でも、そういう視点と、たいていの人が求める明治維新のダイナミズムが最後までうまく溶け合っていかない。ほんとうに最後まで縦糸横糸がうまく編み込まれないまま終わるのだろうか。
維新のせいですっかり権力がなくなって生き辛くなった島津久光(青木崇高)に「手も足もでん こんカメのようじゃ」と言わせることで、ずっと出てきていたカメの伏線回収している場合じゃない。
あと、菊次郎が吉之助のことを“動かざること山のごとし”的なことを言う場面。「父は桜島でした」ってうまいこと言わせたでしょって感じなのだろうか。桜島も当然ながらずっと出てきていたけれども。
横山は自決までして民の苦しみを訴える。それによって民衆の暴動、一揆が頻発するようになった。
短い出番ながら、熱く激しいものをほとばらせた笠松将は、「フェイクニュース」での演技が大評判の光石研も所属する鈍牛倶楽部所属。
東京へ・・・
西郷は東京に行くことになるわけだが、動かず、薩摩で角刈りにして畑仕事をしていた西郷ではあったが、戊辰の戦でなくなった人を訪ね歩いていた。いろんな思いがあったのだろう。
京都・東福寺の即宗院の裏山には、西郷隆盛が建立した明治維新で戦死した藩士の霊を供養するための薩摩藩士東征戦亡之碑がある。それは薩摩のほう(西)に向けて建てられているとか。そして524人の名前には38話で亡くなった吉二郎も含まれているらしい。即宗院はまた、篤姫が輿入れするときに立ち寄った場でもあるといい、さらに西郷と月照が倒幕計画を話し合った場所もある。京都の名所のひとつ東福寺は、西郷どんゆかりの場でもあるのだ。
東京では、大久保を中心に、木戸孝允(玉山鉄二)などが集まって、これからの国づくりについて考えている。
ここは、笑福亭鶴瓶の髪型が面白いのと、朝ドラ「まんぷく」の牧善之介とは全然違う雰囲気を出す伊藤博文役の浜野謙太に注目した。
(木俣冬)
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