愛媛県松山市の中心部から車で15分ほど。文豪・夏目漱石も愛した道後温泉にも近い住宅地。一戸建ての庭先にたたずむ男性を直撃した。
──自殺した萌景(ほのか)さんはあなたのことで悩んでいた?
「ははは。やけん、弁護士を通じてやないと…」
萌景さんの義父は、そう話すにとどまった。
松山を中心に活動するご当地アイドル『愛の葉(えのは)Girls』のリーダーだった大本萌景さん(享年16)が自宅で首を吊って自殺したのは、今年3月21日のこと。7か月ほど経った10月12日、母の幸栄さんら遺族は所属事務所「hプロジェクト」や佐々木貴浩社長などを相手取り、総額9268万円の損害賠償を求める裁判を起こした。
弁護団は萌景さんが自殺した理由として「違法・不適切な労働環境」「パワハラ」「学校と芸能活動の両立を阻害」「高校進学費用の貸付を直前で撤回」「辞めるなら違約金1億円を払えと社長が発言」などを挙げている。
《次また寝ぼけた事言いだしたらマジでブン殴る》
報道では、男性スタッフが萌景さんに送ったそんな文言のLINEのメッセージが、“パワハラの証拠”として大きく取り上げられた。ところが、その前後の文脈を見ると印象はガラリと変わる。
実際のLINEのやり取りでは先ほどの文言のあとには、ユニークな絵文字が使われ、《パンチ!》と結ばれている。また、その文言の前には萌景さんからの
《お疲れ様です。ほのかです!今日社長と〇〇〇〇(注釈:個人名)とお話をして、自分が勘違いをしている事に気がつきました。
なので、脱退する事をやめました。これからも愛の葉ガールズを続けます。
いろいろと心配をおかけしてすみませんでした。
これからもよろしくお願い致します。》
というメッセージがあった。
そして、男性スタッフからの《次また寝ぼけた事言いだしたらマジでブン殴る》というメッセージの下には笑顔の萌景さんの「あっかんべー」自撮り写真。さらに《これでよろしくお願い致します!》のメッセージ。それを「パワハラ」と見るか、「冗談の言い合い」と見るか。
さらに、男性スタッフと萌景さんの母・幸栄さんはLINEでこんなやり取りをしている。
母・幸栄さん
《お疲れ様です。ほのかの母です(笑顔ながら冷や汗のついた顔文字)いつも大変お世話になっております。本人が留守の為代理で編集させていただきました。小学生からやり直しが必要みたいです(青ざめ、困ったような顔文字)すみませんでした(泣いている顔文字)》
スタッフ
《お母様へ
いつもお世話になっております。
ご連絡ありがとうございます。
大勢の方々に注目される仕事ですので、本人にはかなりきつい事を言う事も多々ありますが、成功を目指しているからこその事でございますので、何卒ご理解ご協力をお願い致します。
ありがとうございました。》
母・幸栄さん
《いえいえ(輝きの絵文字)きつく言っていただかなければ行動に移せない子なのは十分理解しておりますのでこれからも厳しくご指導よろしくお願い致します(輝きの絵文字)》
少なくとも当時は、幸栄さんも事務所に対して「厳しい指導」を求めていた様子がわかる。所属事務所の佐々木社長が困惑して話す。
「ご遺族は今になって“事務所は高校転学の費用を貸すと言ったのに直前で撤回した。それが萌景を追い詰めた”とお話しされています。しかし、そもそも私たちは入学金3万円をお渡しし、その後、制服代などの約7万円もすでにお貸ししています。それも、まったくの善意からなのです…」
萌景さんはもともと通信制の高校に通っていたが、全日制への転学を希望し、2月に私立高校を受験して見事に合格。グループのメンバーやスタッフからも祝福されていた。
「ただ、高校入学にかかる費用の計20数万円がどうしても用意できないとのことでした。聞くと、“お義父さんが私にはお金を一切使わないと言っている”とのこと。私たち事務所がサポートしないと、萌景さんが学校に通えない状況でした」(佐々木社長)
遺族の代理人は「萌景さんが勝手に事務所と進学の話を進めた。だから、家族は表立って積極的に進学資金を用意しなかった」と説明する。
萌景さんは小学生の頃に実父と離れ、母が再婚した義父と暮らしてきた。裁判提起の会見には母親や姉が出席したが、その義父の姿はなかった。
「残りの12万円を学校に納める前日の朝、お母さんから事務所に、『帰りが遅いなど萌景の素行が悪く、私の言うことを聞かない。事務所の方から叱ってください』とお願いされたんです。だから、スタッフがお金を貸すのを一旦保留にし、“今日中に必ず社長に連絡をするように”と諭したのです。
その夜、萌景さんから電話があると、『お母さんと話し合って、全日制の学校に行くのはやめました』と言う。驚きました。何度も『お金は用意しているよ。本当にそれでいいの?』と聞いたのですが、萌景さんは『もうお母さんと決めたので、すみません』と何度も謝っていました」(佐々木社長)
実際、幸栄さんは過去のインタビューで、萌景さんに「明日、全日制高校は辞退しよう」と伝えたと語っている。なぜ母親は全日制に通うことに反対したのか。弁護団を通じて発表された幸栄さんの手記にはこう綴られている。
《私も主人も、当初から全日制の高校進学は反対でした。通信制の半期に8日しかない登校日ですら通えないのに、週5日登校する全日制なんて、到底無理だと思ったのです》
それにも、佐々木社長は疑問が拭いきれないという。
「通信制だから週末に登校日があって、イベントがある週末とかち合ってしまう。他のメンバーは全日制に通い、問題なく学校とグループ活動を両立していた。なぜ萌景さんだけが“全日制が到底無理”なのでしょうか。あんなに学校で勉強することを楽しみにしていたのに…」
◆中学生になったばかりの頃かな
生前の萌景さんは周囲に家庭でのトラブルを相談していた。萌景さんの知人が話す。
「亡くなる1年ほど前でした。萌景が、『お義父さんがこたつの中にカメラを入れて、私の下半身の写真を撮っていた。私はカメラを取り上げて、撮られた画像も確認した』と言うんです。その他にも、『お風呂に入っているとき、脱衣所に誰かが入ってくる』『部屋のドアの鍵が壊された』とも」
その頃から、周囲に「家から出たい。ひとり暮らしをしたい」「家に帰りたくない」とこぼすことが多くなった。
「萌景さんはお母さんのことは大好きでした。でも、遅くまでゲームセンターに入り浸ったり、友人宅を泊まり歩いたり。深夜に“家に帰れない”と電話がかかってきて、車で家に送ったことが何度もありました。家の前に着いても、なかなか降りたがらず、車中でイベントのMCや自己紹介の練習をしたり、あれも聞いて、これも聞いて、とおしゃべりが止まらなかった」(佐々木社長)
萌景さんの自宅前で、義父に話を聞いたが、「もうええ」「取材は受けん」「弁護士を通して」と繰り返した。母の幸栄さんが引き取って答える。
「わかってます、わかってます。何のことか」
──萌景さんが、お父さんに下半身の写真を撮られたと悩んでいた。
「うん、いろいろ言われていますよね。本当にいちばんの難しい年頃じゃないですか。それでお互いがぶつかることは、たびたびありましたよ。それは正直、誤解といえば、誤解なんですよね。はっきりとは聞いていないけど、そういうふうなのじゃない。ふだんから家の中を下着で歩く子でもあったんで。しかもそれはすごく前のことですよ。中学生になったばかりの頃かな」
──お母さんはずっと前から知っていた?
「そやけん、周りが思うような、そんな深いんじゃない。登校拒否してた中学時代、私が戸外に出したら、近所中に聞こえる声で『ママが虐待する』って叫ばれたことがある。そういう子なんです」
遺族の代理人は「思春期やステップファミリーにありがちな関係性から生じる悩み以上のものはない。義父は『盗撮』はしていない。『盗撮』があったと指摘される事象は、萌景さんが中学1年生の時なので自殺とは無関係」と言う。
萌景さんの気持ちを理解できる大人は誰もいなかった。
※女性セブン2018年11月8日号
続きを読みます http://news.livedoor.com/article/detail/15500544/
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