営業志望で入社の異色アナ
福島暢啓との印象的な名前に「あの面白いアナウンサーね」と頷く人は関西在住だろう。毎日放送(MBS)に勤務する31歳。「ふくしま・のぶひろ」と読む。この若手アナを「関西で注目の逸材」とTBSの安住紳一郎アナ(45)が高く評価したことが、ちょっとした波紋を呼んでいるという。
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TBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」(毎週日曜:午前10時〜午前11時55分)は、関東のラジオ番組でも屈指の聴取率を誇る人気番組だ。しかし10月7日は、「福島暢啓の日曜天国」として放送された。
先にタネを明かせば、安住アナが夏休みを取得。福島アナは“代打”を務めたのだ。しかし普通は、TBSのアナウンサーに頼むのが一般的だろう。もちろんMBSは「TBS系列局」ではあるが、異例中の異例であることは言うまでもない。
9月23日の放送ではオープニングで、10月は安住アナが休みを取り、7日の放送は福島アナが担当することが告知された。そして“代打”を大阪のアナウンサーに依頼することをリスナーが「なぜという気持ちになるかもしれません」とした上で、福島アナを「大変優秀」、「逸材」と評価したのだ。
《筋でいきますとね、私が自分の会社の後輩にピンチヒッターを頼むべきなんでしょうけれども、ここはちょっと皆さんにぜひ関西ナンバーワン、将来性ナンバーワンと言われる、ちょっとね、大阪桐蔭の根尾くん的な(笑)、ちょっと先取りして聴いてみてはいかがでしょうかという、この私の計らいですよねえ。どうですか? ちょっと気になりますよね? 「おおっ!」って思いますよね》
そして「自分のポジションを脅かしてこそ、真の代打」と力説。福島アナの面白さに、安住アナがレギュラーを奪われる可能性まで言及した。これほど褒められると、逆に福島アナはやりにくいのではないかと心配になるほどの持ち上げようだったのだ。
福島アナの出身は宮崎市。京都の龍谷大学文学部に入学し、大学院に進む。出版社で辞書編纂に関わりたいとの夢もあったという。ラジオとテレビに深い愛着があったことなどからMBSを受験し、2011年に入社する。ちなみにエントリーシート(応募の履歴書)には営業志望と書いたそうだ。
大学時代は落語研究会に所属。自身で落語やウクレレ漫談を披露しながら、大学の先輩と漫才コンビを結成。07年と09年の「M-1グランプリ」に挑戦して共に準決勝まで進んだという実績を残す。喋りに関してはセミプロだったのだ。
しかも学生時代からNHKラジオの「ラジオ深夜便」(毎日:午後11時15分〜翌午前5時)を聞き込むほどのラジオフリーク。結果、昭和歌謡に博学な知識を持つに至る。
こうした経歴をMBSは入社後に把握。新入社員に対する懇談会で担当者がアナウンサーへの異動を打診。これに福島アナは快諾するという珍しいプロセスを経て現在に至っている。
アシスタントの中沢有美子アナも爆笑
そして番組のリスナーや、TBSやMBSの関係者が固唾を飲む中、10月7日に「福島暢啓の日曜天国」がオンエアされた。番組の冒頭で福島アナは「皆さん言いたいことは色々あると思うんですけども、お気持ちはよく分かりますので、後ほどご説明します」と軽い自虐ネタを披露してスムーズに進行していく。
福島アナと、アシスタントの中澤有美子アナ(43)の掛け合いを、少し紹介させていただこう。番組開始から20分ほどした頃だ。福島アナの「出征」という言葉に、中澤アナが笑い転げる。そのトーク力は確かに見事だ。
福島アナ:大阪のMBSの社員たちも、みんな本当に不思議なもので、応援してましてですね、ええ、「頑張ってこいよ」、「行ってこいよ」っていう、本当、出征するような気持ちで(笑)。
中澤アナ:出征ですか?(笑)
福島アナ:本当にそう、びっくりしました、本当に。
中澤アナ:戦地に送り出される感じ(笑)。
福島アナ:もうあの、万歳、万歳で送り出されまして(笑)。本当に、なんか変な感じなんですよ。
中澤アナ:あははは(笑)。いや、お人柄ですよ、福島さんの。
福島アナ:いや、お人柄って言うか、何なんでしょうかね? TBSラジオというのはどういう位置づけなんですかね?(笑)
中澤アナ:まあ、そうですね(笑)。
福島アナ:だから、それだからこそ、どんどんまた余計に恐怖心が出てくるんですよ。「頑張れ」、「頑張れ」って言われれば言われるほど、「えっ!? そんなに頑張らなきゃいけないのかな?」って。
中澤アナ:「どう頑張ったらいいのかな?」って。
福島アナ:僕は言ってもあれですよ、「来い」と言われたから来た状態ですから、任命責任があると思って来てるんですよ(笑)。
昭和歌謡に深い造詣を持つアナウンサーらしく、最初に流した曲は、井沢八郎(1937〜2007)が64年に発表した「あゝ上野駅」。トークコーナーではゲストに戦前レコード文化研究家・保利透氏(46)を招き、日曜の午前中から東海林太郎(1898〜1972)の話で盛り上がる。あまりの時代錯誤ぶりに、ゲストの保利氏が苦笑する一幕もあった。
TBSの局内では困惑と不安の声?
翌週の10月14日に「安住紳一郎の日曜天国」がオンエアされると、安住アナは福島アナの放送を絶賛する。「声がいいですよね。そしてあの落ち着き、『農協の理事長か!』っていうような(笑)、そういう落ち着きがありますよね」と褒めちぎる。以下、その絶賛ぶりを再録させていただく。
安住アナ:私と話し方、似てますでしょ?
中澤アナ:本当にそうですねえ。
安住アナ:そして考え方というか、なんとなく「あ、同じ材料で作った2人だな」っていう感じがしますよね?
中澤アナ:そうですね(笑)、そうそう。そう、それでこう、お行儀がいいんです。
安住アナ:そうなんです。物静かな口跡、いい具合に枯れた声の調子、味わい。「ラジオ深夜便」を10代から聞いているだけあってという。むしろ「俺もゆくゆくはこうなるのかな?」って(笑)。
中澤アナ:あははっ(爆笑)。そうなんです!
安住アナ:自分の将来を感じさせるような31歳。
中澤アナ:そうなんです(笑)。
安住アナ:14歳も下なのにね、なかなかね、あの真似はできないんですよ、彼のね。落語とか水墨画とかね、戦前の歌謡曲などを聞いて、普段から自分のイメージを膨らませているという福島さんですから、なかなかね、そのへんのアナウンサーが真似をしたところで、あの味わいは出ないわけですけども。
安住アナは旅行中だったが、気が気でなくなり、ボスニア・ヘルツェゴビナのホテルで早朝、ネットで福島アナの放送を視聴。「嬉しい気持ちと嫉妬の気持ちが半々」になり、悶絶してしまったという。
《安住アナ:右手の人差し指の指先のところに、ちょっとね、皮のほつれって言うんですか、ささくれがあったんですけども、それをいじいじやっていたんですね。それで福島くんの『日曜天国』をずっと聞いていたんです。そしたら、やっぱり――まあ大の男がそういう指先をいじっているのはどうなんだっていう話もあるわけですけども――自分でもやっぱりびっくりしましたね。興奮しているから痛みが分からないみたいで、その福島くんの、そのラジオの面白さに嫉妬しちゃって、指先の皮をね、ベロベロ剥いていた》
番組リスナーにとっては「安住アナの予告編」「福島アナの本編」「安住アナの後日談」と3回の放送を楽しめるという大満足の展開だったわけだが、TBS局内には困惑する声もあるという。TBS関係者が明かす。
「まず心配なのが、後輩のアナウンサーです。当然ながら、代打が福島アナだったのは面白くなかったでしょう。この安住さんの“蛮行”がアナウンス室にどのような影響を与えるのか、懸念する声はあります」
実は安住アナ自身が10月14日の放送で触れているが、TBSの社員としても相当にリスクの高い行動だったという。
「安住さんと福島アナが以前から交流を持っていたのは事実です。ただ、安住さんも番組で触れていましたが、TBSとMBSの関係は決して良好ではありません。福島アナが出演する際、MBSのプロデューサーとディレクター、そしてアナウンス室長も一緒に上京しています。要するに相当な『大ごと』だったんです」(同・TBS関係者)
なぜ、そんなことに踏み切ったのかについては、一応、安住アナは説明している。
「安住さんは『東京と大阪の放送局連携を楽しんでもらった』と意図を明かしましたが、これを額面通り受け止めているTBS社員は少数派だと思います。福島アナという“可愛い後輩”を東京のリスナーに紹介したいという想いは純粋だったはずですが、安住さんがある意図を持って福島アナを起用した側面は否定できません。上層部に対するメッセージだという解説が密かに流布しています」(同・TBS関係者)
安住アナはTBSに対する愛着が強いとされ、少なくとも今のところは独立と無縁だと言われている。だが、決して盤石な状態でもないのだという。
「安住さんも46歳。本来なら管理職としての仕事がメインになってきます。51歳の安東弘樹アナは今年18年、『管理職の仕事とアナウンサーの仕事が中途半端で終わることは避けたい』と独立に踏み切りました。安住さんも同じ問題で悩んでいるのでしょう。今回、会社員としてはあえて波風を立てたのも、『俺は管理職より1人のアナウンサーとして現場に立ちたい』と“出世拒否”をアピールしたのではないかと見る向きがあります。『俺はヤバい人間だ。管理職の器じゃないぞ』というわけです」(同・TBS関係者)
ちなみに中澤アナは、10月7日の番組の最後で、福島アナに来年の出演を依頼した。そもそも再出演は実現するのか? そして現実のものになったとして、安住アナは依然として会社員なのか……?
これを見物と言っては失礼だろうが、少なくとも今の安住アナは、独立したほうがよほど簡単だろう。TBSは今後、彼をどう処遇するのか。
週刊新潮WEB取材班
2018年10月26日 掲載
続きを読みます http://news.livedoor.com/article/detail/15500526/
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